gimresi's blog

みきと@研修医・内科×とある総合診療専攻医のブログ

片田舎のとある総合診療専攻医のアウトプット用ブログです。たまには関係ないことも綴ります。

内分泌疾患でのステロイドの使い方

甲状腺クリーゼの中でステロイドの使い方

 

症例1

30歳女性。上腹部痛・下痢・発熱を主訴に来院。意識障害なし。甲状腺はびまん性に腫大し頻脈140(不整)・振戦も認めた。血液検査ではTSH<0.01,Free T4>7.77,Free T3 27.5,TSH受容体抗体陽性であり、バセドウ病による甲状腺クリーゼと診断。β遮断薬、ステロイド、ヨウ化カリウム、チアマゾール投与で軽快しチアマゾールのみ継続して退院となった。

 

・病態

 甲状腺機能亢進症が存在し、これに何らかの強いストレスが加わったときに甲状腺ホルモン作用過剰に対する生体の代償機構が破綻して複数臓器が機能不全に陥った状態。Basedow病に起因することが多い。

 

・症状・診断

 中枢神経症状・発熱・頻脈・心不全症状・消化器症状のうち中枢神経症状+他の症状項目1つ以上または中枢神経症状以外の症状項目3つ以上を認めた場合に診断・

 

・治療

1 甲状腺ホルモン産生・分泌の減弱

チアマゾールまたはプロピルチオウラシル

ヨウ化カリウム

ステロイド(T4からT3への変換を抑制する)

ステロイド処方例:ヒドロコルチゾン50mg点滴静注 6時間ごとから開始、漸減する。

2 甲状腺ホルモンの作用の減弱

β遮断薬(プロプラノロールもしくはアテノロール)

 

甲状腺クリーゼは臨床的に診断することが重要であり疑われれば直ちに集約治療を開始する。

 

甲状腺眼症でのステロイドの使い方

 

症例

30歳喫煙男性。動悸・右眼球軽度突出・複視を主訴に来院。血液検査、シンチ検査Basedow病と診断されMRIで右甲状腺眼症を認めた。抗甲状腺薬・ステロイド療法で眼症は軽快したが残存している。

 

・病態

 主にバセドウ病ではTRAb(TSH受容体抗体)が眼球周囲脂肪組織や動眼筋に炎症を起こすことで発症する。喫煙がリスクファクターの一つである。

 

・治療

 炎症・免疫反応を抑制するために眼科管理下でステロイドパルス療法、維持療法を行い、減圧術や放射線照射術も適宜行う。禁煙も重要。

処方例:メチルプレドニゾロン1g/日を3日間連続投与(パルス投与)。そのあとプレドニゾロン0.4~0.5mg/kg/日に切り替え、3〜6ヶ月かけて漸減する。

甲状腺眼症は甲状腺ホルモンの状態とは無関係に起こることもあり、橋本病でも合併することがある。

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亜急性甲状腺

・病態

 先行感染に続発することが多く、圧痛を伴う破壊性甲状腺炎である。女性に好発し春から夏にかけて発症が多い。

・治療

 NSAIDsによる疼痛コントロールが不十分な場合にステロイドを投与する。

処方例;プレドニゾロン30mg1日1回 数ヶ月かけて漸減する

 

粘液水腫性昏睡

・病態

 重度の甲状腺機能低下症により、低体温・意識障害・徐脈・抹消血管収縮などが生じた状態で感染・低血糖脳卒中・外傷などを契機に発症することが多い。

・治療

 原疾患の治療・循環動態安定化・加温のほかレボチロキシンステロイドの補充を行う。ステロイドの補充は副腎不全を併発している場合が多く、レボチロキシン単独投与では副腎クリーゼが誘発されるリスクがあるからである。

処方例:ヒドロコルチゾン100mg点滴静注 8時間ごとから開始し漸減する。

 

高カルシウム血症

・病態

 外来患者では副甲状腺機能亢進症、入院患者では悪性疾患関連が多い。

 

・症状

 消化器系:便秘、食欲低下、吐き気、嘔吐、膵炎、消化管潰瘍

 中枢神経系:意識障害、せん妄、うつ

 腎尿路系:結石、腎機能低下、頻尿、尿崩症

 筋骨格系:筋症、筋力低下、偽通風

 その他:高血圧、皮膚掻痒感

 

・治療

 ステロイドは消化管からのカルシウム吸収を抑制するが、血中カルシウム濃度の低下には数日かかる。そのため急性・症候性の場合はまず生理食塩水による補益+フロセミド+ビスフォスフォネートなどを投与する。一方で乳がん・骨髄腫・サルコイドーシス・ビタミンD中毒による慢性高カルシウム血症の場合にはステロイドの有効性が高い。

処方例:ヒドロコルチゾン100mg点滴静注を8時間ごとから開始し、プレドニゾロン1回30mg、1日2回に切り替える。

Tips:高齢者では骨粗鬆症治療薬としてビタミンD投与が漫然とされていて高カルシウム血症になっている場合があるので注意。